写真:前夜祭で絶妙の掛け合いを披露する福崎九段と藤井九段。対局者が用いる盤外戦術について藤井九段が語っているところ。
昨年の竜王戦第一局はパリで開催された。そのときにWEBの企画で行われたのが、「WEB進化論」の著者である梅田望夫氏によるリアルタイム観戦記。初心者にもわかりやすいと評判だったようで、竜王戦、棋聖戦の同ページアクセスは大事件のニュース並みだったらしい。
梅田望夫氏による2009年棋聖戦観戦記
これに倣って、高校時代は県代表だったこともある私も、ちょっとだけ観戦記もどきを書いてみようと思う。対象は、将棋のルールを知っている人のレベルにします。
ただし、リアルタイムでもなければ、第一次情報でもないのでご了承を。(明日は比叡山に行って、夜にまとめて書きたいと思います。ご期待ください。)
将棋のタイトル戦、番勝負は、先後の不公平がないように、第一局は振り駒(歩を5枚投げ、歩が多ければタイトル保持者が先手、とが多ければ挑戦者が先手となる)が行われ、以降は先後が入れ替わりながら、最終局に改めて振り駒が行われる。ちなみに、七冠王時代の羽生名人は8割の確率で振り駒に勝っていた。(自宅で数千回振り駒をした森内九段によれば、歩のほうがとよりも出やすいらしい)
将棋における先手、後手の差は少なく、おおよそ、先手の勝率は53㌫とされているが、昨年度は史上で初めて後手がほんの少し勝ち越した。ただし、この両者に関して言えば、先手をもった場合の勝率が高く、そういう意味では注目の振り駒であった。これによって、両者の作戦の立て方が大きく変わってくる、と渡辺竜王も言っていた。
先手となった森内の初手は▲7六歩。もっともポピュラーな指し手であり、プロ、アマ問わず採用率が非常に高い。
対する2手目、渡辺の指し手は△8四歩。この手には、「あなたの作戦に付き合いますよ。矢倉でも角換わりでもどうぞ」という意味がある。いわば王者の一手である。
3手目、森内は▲2六歩。ここで▲6八銀なら矢倉が確定、▲2六歩は角換わりか横歩取りを後手に選ばせる手である。このあたり、作戦選択をめぐるプロならではの駆け引きだ。
結果、森内九段の誘いに、渡辺竜王が乗ったという感じで、戦型は角換わり腰掛け銀となった。(ちなみに、角換わりの将棋は上記のように先後のいくつかの同意が必要なために、アマチュアで指されることは少なく、本も少ない。)
作戦が決まれば、スラスラと進むのがこの戦型の特徴。過去の実戦例が整備されているからで、どちらが先に新手を出すのかに注目が集まった。
27手目、森内九段の▲6六銀で、この将棋は未知の世界へと入った。角換わりの将棋というのは、木村定跡にあるように、先後同じ形から勝負が始まることも珍しくなく、その場合先手が先攻し、後手は受けになる。
渡辺はその形を受けることに絶大な自信を持っているので、森内の誘いに乗ったのだが、森内は同型の将棋ではなく、新手を用意していた。その場で思いついたのではなく、先手ならこの手を指す、と決めていたに違いない。
渡辺は意表を突かれて、ここで50分考えて△8六歩。一分でさせる手で、誰の目にも当たり前の手だが、いろんなことを確認したのだろう。ここからは難解な手順が続くので、興味のある方は棋譜のコメントや、中継ブログをつぶさにチェックするといいだろう。竜王戦は午前中から、茨の道へ入った。カーナビの利かない世界に誘導された竜王は、どのような策を練っているのだろうか。
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